限られた制約の中で、今までに無いものを生み出す

オープニングイベントの演出・振付を担当する逢坂さんも交えて、オーディションについて教えていただきました。

ーーーこの先進的な取り組みを、オープニングイベントでのパブリックパフォーマンスに繋げていくということですが、どのような内容になるんでしょう？

逢坂：今回のパフォーマンスは、”こんな使い方の可能性もあるよね”という例を市民の皆さんに提示する、というのが一番の目的です。
例えば、低い所に座る人もいれば、高いところに寝そべる人もいるかもしれない。　
それらをストーリー性をもって身体表現するパフォーマンスを作ろうとしています。

逢坂由佳梨さん photo by mike nogami

ーーーでは、いわゆる脚本のような詳細な流れは今から制作していくということですか？

逢坂；大枠はもちろん津川さんと話し合いながら決めているんですが、実は今この時点でパフォーマンスのストーリーが完璧に決まっているわけではないんです。
オーディションをして人材を集めるんですが、幅広い層のパフォーマーに集まって欲しいと思っています。
そこで集まってくれたパフォーマーの多様なバックグラウンド、得意なジャンル（演劇なのかストリートパフォーマンスなのか…etc)によって、その登場人物たちが紡ぎ出す物語が変わってくると思っています。

広場でのパフォーマンスイメージ

ーーー集まった人たちによって、出来上がるものが変化するということですね。

逢坂：はい。先ほど津川さんがお話していた建築の作り方は、「まず作りたいものを自由に考えて、そこからどうやって実現するかを詰めていく」だったので、このパフォーマンスの作り方はちょうど対比のようになっていますね。

津川：確かに！！ちょうど逆のアプローチになっているのは面白いですね。

逢坂：パフォーマンスできる時間や人数、場所の広さなど限られた制約が前提としてたくさんあって、その中から今までに無いものを生み出す、「あるものから作っていく」という感じですね。

ーーーでは、パフォーマーの方にも広い層の人たちに集まってほしいということでしょうか。

逢坂：はい。全体としてはダンスパフォーマンスを実施するということで募集をするのですが、ダンスに限定せず色んな表現ができる人が集まればいいなと思っています。
それはもしかしたら歌を唄うことかもしれないし、他にもジャグリング・アクロバティックな体操・テーマパークのキャストなど、ジャンルにこだわらず、即興的にリアクションできる方が来てくれたら嬉しいです。
そうやって集まった全体の人を見て、最終的にストーリーを決めていきます。

ーーーなるほど…！非常に挑戦的な取り組みだという印象を受けます。

津川：しかも今回すごいなと思うのは、この挑戦的な内容を神戸市が許可してくれたということです。
「自由にやってください！」っておっしゃっていただいてるのですが、ほんまにやって大丈夫かな？って時々思います。笑
逢坂：本当に、神戸市の寛容さが表れてますよね。

逢坂由佳梨さん photo by YUYA

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積層されていく文化や記憶が価値を作る

ーーーでは、オープニングイベントが終わってからの、広場の今後について展望はありますか。

逢坂：これからも広場がパフォーミングアーツを発表したり、映像作品などを撮影する場になればいいなと思っています。
　　　実は私も今年、今回のイベントとは別でダンス映像を撮りたいと思っているんです。

津川：市民が活発に活動している場所だっていうイメージをみんなに持ってもらえる場所にゆくゆくはなってほしいですね。
造形のアイコニックさ(象徴的・特徴的さ)に負けずに市民のエネルギーが溢れているような広場になってほしいです。

ーーー自分が作ったデザインが広場のイメージになるのではなく、そこに集まる人たちが広場のイメージを作っていくということでしょうか。

津川：昔の建築物って、奇抜だったり目に留まるようなものがドーンと建つようなものもあったのですが、私はそこに対して懐疑的で。
その建築物のデザインに促されて、人がそこで活発に活動しているという状態を作り出すということが大切だと思っています。

逢坂：使い方にも多様性があるような広場になっていってほしいですよね。

津川：そこでのそれぞれの活動は一瞬かもしれないけれど、今はそれがSNSでシェアされて記録に残ることで、また誰かに影響を与えて、次の活動に繋がるという”継続性”があったらいいなと思います。

どうしても建築って経年劣化でどんどん価値が下がっていくものなんですけど、本当はそうじゃないんです。そこにたくさんの人が介在していて活動している、そうやって積層されていく文化や記憶があればむしろ価値は上がっていくと思うんです。

ーーーお話聞いていて、お二人ともに共通するなと思ったのは、「自分が表現すること」が目的じゃなくて、「自分の表現を通じて、そこに関わる誰かに活力を与えること」が目的になってるのって素敵だなって思いました。

逢坂：それは私とっては自分のエゴかもしれないと思ってもいます。
例えばダンスの公演がもし無くても、観客の方が飢えて死ぬということは無い。
でも、あるときっと世の中が豊かになる。
そういうアートやエンタメが、どうやったら社会と関わっていけるのかを考えたときに、「誰かにきっかけを与える」とか「人に活力を与える」という結果が伴わなければいけないのかな、と思います。

津川：とてもわかります。
建築ってその点では両義的なものがあって、例えば住宅って生きていく上で必要不可欠なものだけど、もし単に住むという機能的なものを満たすだけの住宅だけになってしまったら、きっと都市って味気ないものになってしまう。
そこに、アートやエンタメ業界の表現者のように、文化的な価値を付けることで、いかにそこからより人生を豊かにする要素を足していくか、というアプローチもできる。

私は特に後者の方、人生をより豊かにする方に取り組んでいきたいと思っています。NYに行って驚いたことの一つに、目に見える利益じゃなくて文化的な価値に対してお金を払う人がとても多い、ということがあります。

逢坂：アメリカでは、そういった団体への寄付などが税制上優遇されるといったこともありますが、やっぱりそもそもの感覚が全然違うというのは感じますね。

津川：ドイツのメルケル首相が去年、このコロナ禍で芸術支援を優先順位リストの一番上に置いているとし、クリエイターなどに補助金を支給するといった取り組みも、凄いなと思いました。

逢坂：凄いしそれができたら理想的だな、と思います。
ただ同時に、実際に実現するのはとても難しいことだな、とも思います。

ーーー逢坂さんはどちらかというとクリエイター側の立場にいらっしゃるのに、そういう感覚をお持ちなんですね。

逢坂：そうですね…それはもしかしたら、NYでのウイルスによる被害が本当にひどかったのを目の当たりにしたからかもしれません。「ダンスは後回しでいいからーー」と私自身思ったくらいでした。

ーーーなるほど。少し話が戻りますが、今回のオープニングイベントはこういう状況だからこそ、実施することに意義があるとお考えですか？

津川：そうですね、やっぱり一番叶えたいのは「公共空間のあり方を変えたい」ということだと思っています。
街に出るということがネガティブなことになってしまっているけど、もちろん街で働いている人もたくさんいて、その人たちは困っている。

これからって、もう「元の街に戻る」じゃなくて「次に新しい一歩を踏み出さなければいけない」という時代なんじゃないかと考えています。そのきっかけになればと思っています。

逢坂：広場は屋外なので、感染リスクが低いというメリットもあります。神戸市の方でも外でイベントをするという企画を打ち出されていましたけど、今後市民の方にも「こういう形だったら安全にイベントができるんだな」という一つの例になってほしいなと思います。

ーーーちなみにこのコロナ禍じゃなかったら、このイベントって実施してましたか？

津川：やっていたと思います。…あれ、これやってなかったって言った方が良かったのかな笑

逢坂：もしコロナ禍じゃなかったら、もっと市民の方たちがパフォーマーと入り乱れて行われる参加型のイベントになっていたと思います。

津川：もしかしたら数年後、今回の企画をグレードアップしたものを実施するかもしれないですね。

ーーーそうやって継続して行われていったら素敵ですね。

逢坂：ただ、今回の企画はコロナ禍で制約ができたことで、別のアプローチが生まれて最終的な形ができたので、出来なくなってしまったからこの形になった、というイメージではなく、この部分に関しては前向きに捉えています。

ーーー別のアプローチというのは、どんなものなんですか？

逢坂：詳細に関してはまだ内緒です。笑 ただ、パフォーマー同士で映像をうまく使って実施したいと思っています。 多くの方に来場いただけるわけではないので、映像でたくさんの人に楽しんでいただけるようにしたいです。

ーーーそれはとても楽しみですね！！！お二人とも、ありがとうございました。

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